青龍(せいりょう)権現の事

heisai2006-09-14


 持物を整理していたら、以前M先生から頂いた『京古本や往来』第100号(「珍書稀覯画探求余聞」村井市郎 掲載号)が出てきた。整理が悪いために必要な時に必要なものがスッと出て来ないのが悩みである。そこで、折角これが姿を現した機会にメモをとっておくことにした。

・ 右図は『當寺(*醍醐寺)鎮守青龍権現習事(せいりょうごんげん・ならいのこと)』(明和9年・巻子本・M氏所蔵)の掲載図。現物は”銀箔の地色に浮き出た月輪(がちりん)の中で、白蓮台上に宝珠形の火焔光背を有し、五色五輪塔を頂いた美しい彩色画”である。 

・ 醍醐寺霊宝館展示品の図柄はこれと同じ。阿形と吽形の二頭の白蛇が一体となってとぐろを巻いている。
すなわち、二つの鎌首はとぐろから左右対称に出ているが、この二頭の胴体は(尾がなくて)一本に繋がっているかのようである。そして、二頭の上部中央には一つの五輪塔が描かれている。
・ 醍醐寺に鎮守として祀られている清瀧(せいりょう)権現は、通常、冠を頂く十二単衣・立ち姿の女神。
・ 前掲書には上記の図の詳細が「可秘可秘」(ひすべし、々々)の文言と共に説かれている。そこではこの蛇神が清瀧権現の”秘密の霊神体”で、白蛇の二頭は、青龍権現の二尊の本地仏である准胝観音如意輪観音を表わす。しかも、准胝は金剛界大日・如意輪は胎蔵大日の化身だが、その二頭が一体となっているのは、二而不二(ににふに=二つであって二つではなく一体)、理智冥合(=胎金妙合、陰陽合一と同義)を表わす、と説く。


 以上は、前掲書(M氏所蔵本)の所説に依拠して、醍醐寺霊宝館に展示されていた古写本の、同じ図柄の密教図像の意味を解き明かしたもの。筆者が展示を拝観していると、密教図像の大家として高名な霊宝館館長が知人と思しき来館者にこれを”インドのナーガ信仰の一種”と軽ーい解説をされている。(そっと教えて差し上げたが、その対応がかなり傲慢)この神を守護神とする醍醐寺の、その霊宝館長がこの秘像の”大事”をご存知ないとはちょっと・・・と筆者は述べている。