二股ソケットとセパラ・ボディー (続)

heisai2006-07-26


 エジソン展図録にあるような「ヘヤーカーラー」を壁コンセントではなく、専用アダプター(セパラ・ボディー)を介して電灯用ソケットに接続する場合、電球は外すのだろうか?。
 昼間ならそれもよいだろう。では夜はどうする?。暗闇のなかでカーラーを使うのか?。

 日本で松下幸之助さんが「二股ソケット」を考案したとされる大正中期(1920〜)頃までの、約10年間、ヘヤーカーラーを電灯用ソケットに接続して使用するには非常な不便を我慢しなければならなかったことになる。

 これに対して、発明王エジソンが何とかしようと思わなかった、とは私には到底考え難いのである。http://research.php.co.jp/kenkyu/report/pdf/k_kenkyu/ajiro051101.pdf
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◑ 当時の電気事情について、下記の本に参考になる記述がある。
  『にっぽん電化史』(㈳日本電気協会新聞部、2005.7.13刊)
    第6章「暮らしの電化」(P259〜261、村瀬敬子)
(拙稿『二股ソケットとは何か』はこの本のことを知らないで書いた。知っていたら参考にさせて頂いたのにと、ちょっと残念に思う)
● 東京電灯のパンフレット『電熱御案内』には、家庭で電気器具を使用するには四つの方法があることが述べられている。
① 電球を取り外し、ソケットに捻込栓を挿入して器具を使用する。→照明が使えない欠点がある。(第1図)
② 分岐ソケットを使用。
③ 特別配線をして、部屋の一隅にコード接続器を吊るす。
④ 特別配線をして、壁コンセントを取り付ける。
 ※①② は300W以下の電気器具に限られる。
 ※③④ は工事費と月々の貸付料が必要だが、「電灯料金」より安い「電熱料金」が適用される。

【平斎注】 
 ・ 貸付料とは、配線の貸付料なのか、アイロン・スタンド・ラジオ・扇風機などの電気器具の貸付料なのか、記述からは分かり難い。
 ・ なお、当時の料金体系は「定額制」と「従量制」の2種があったが、この『電熱御案内』の説明は「従量制」(通称「メートル」とよばれた)の場合であろう。挿絵に「電灯メートルによる簡便な器具の使用法」と書かれているからである。
 ・ ユーザーが「定額制」を選択した場合は、電球のワット数ですら規定されていたのであるから、分岐ソケットや各種の電気器具の使用など、電灯会社が認めるはずがない。コッソリ使うのは契約違反である。
 ・ ②の所で、著者の村瀬敬子氏は「分岐ソケット」と「二股ソケット」を区別して、前者は二股の片方がコンセント(=サイドタップという)になっているもの、後者は二股の両方が電球用の受け金(螺旋)になっているもの、そしてこの二つは状況によって使い分けたのだろう、と述べている。
 ここに述べられている「分岐ソケット」とは、通称「一灯一差し」、松下電工では「差込ト型クラスタ」(昭和8年発売)と呼んでいるものを指している。
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 上記『電熱御案内』の出された時期は、その内容から推測すれば、多分、1930年以降であろう。
 日本における「二股ソケット」の進化を表で示せば、

(石渡電気(石渡幸之輔))明治末期・・・米国製のコピー製品を製造?
(松下)大正7年(1918)・・・二灯用差し込みプラグ
(松下)大正9年(1920)・・・パンツ型二灯用クラスター(二股ソケット)
                  ト型二灯用クラスター(二股ソケット)
(松下)昭和4年(1929)・・・・セパラ・ボディー
(松下)昭和8年(1933)・・・・差込ト型クラスタ

 ◑ 差込ト型クラスタは、「二股ソケット」の進化型であって、分岐の片方を初めからコセントにしたもの。従って、これであれば例の(エジソンの)ヘヤーカーラーが専用アダプター(セパラ・ボディー)なしで使えるわけである。  


※挿絵は『にっぽん電化史』P260より転載。