<莎草>は<はますげ>か?

[猪飼野]<莎草>は<はますげ>か?

 『摂津深江の菅笠の研究』(大阪府文化財調査報告書 第四輯・昭和31年3月・大阪府教育委員会・執筆=委員・鳥越憲三郎)に次の記事がある(P59)。


深江稲荷神社の神社明細帳に)末社榎稲荷神社については、玉造豊津神社が伊勢外宮の分霊を勧請したときに深江に神輿を休め、村人は莎草を齋庭に敷いたが、現在地がその場所で、後年霊亀元年その由緒により外宮から豊御食津神の分霊を勧請し、小祠を創建したと記している。


 そこで、この文中の<莎草>を何と読み、どのような植物と理解すべきか?という問題である。

 『五畿内志(の摂津志・東成郡)』に【土産】菅笠 深江村及隣邑多以莎草之。唯以深江号。

 これにももちろんルビはない。
 しかし、流石に誠所先生の記述は周到である。上記に続けて、


 本邦古来菅莎通用


と。そしてこの五畿内志の跡を受継いだ『摂津名所図会』は、

 【名産深江菅笠】深江村および隣村多く莎草をもってこれを造る。ただ深江笠と称して名産とす。

と記し、莎草に<すげ>とルビを振っている。
 ところが現在の漢和辞典では<莎>の訓は<はますげ>である。
 <すげ>と<はますげ>は同じカヤツリグサ科スゲ属の仲間ではあるが、背丈や生育場所など様々な点で異なる別種である。

 すなわち、本邦では文字の上では「古来菅莎通用」であるが、これに<はますげ>という訓みを付してしまうと、これはもう所謂<すげ>(=かさすげ)とは別の植物を指すことになってしまう。

 これは例えば、<猪>の文字はブタ・イノシシの両方の意味を含んでいるが、イノシシと訓読みした場合には、<豚>の意味を包含させることは不可能となる、と言うのと同じである。


 漢字の意味は広いので、ルビを打つのは慎重でなければならない。 
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※本稿を記すにあたり、大阪市立自然史博物館岡山理科大学 星野研究室内すげの会 の諸先生、富山県で菅田を営む岸野さん より貴重なご教示を賜った。またウェブ上では「この言葉、あの言葉」のサイトhttp://blog.livedoor.jp/nrudt/archives/51187448.htmlが大変参考になった。記して感謝の意を表したい。