猪八戒の素性

[猪飼野]猪八戒の素性

1.『西遊記』の書誌
 書庫の棚に、大分以前から『西遊記』の訳本が三種類ほどあるので、一度その異同を確認しようと思いながら永い間そのままになっていた。
 今回改めてよく見て見ると、バージョンは違うが、三種類とも内容は殆ど同じであった。
① 中国古典文学全集全33巻(13・14)『西遊記』上下 昭和35年・平凡社
② 完訳四大奇書             『西遊記』上下 昭和38年・平凡社
③ 中国古典文学全集全60巻(31・32)『西遊記』上下 昭和46年・平凡社
 訳者はいずれも鳥居久靖・太田辰夫。(②にのみ扉に「呉承恩作」とある)
 解説は、①③では上巻の巻末に、②では下巻の巻末に載せられており、内容・分量ともそれぞれ異なる。解説に載せている図版や表も違うように、説明内容の重点の置き方が少しづつ異なるようだ。

【解説に収録の図版・表】
①・明本・元本(朴通事諺解所引)の内容対照表
 ・世徳堂刊本 挿絵影印4面(天理大学蔵)
 ・清白堂刊本 本文第1ページ影印(内閣文庫蔵)
 ・明刊本諸本の系譜図
 ・清刊本諸本の系譜図
 (解説:14ページ強)
②・大唐三蔵取経詩話 影印
 ・世徳堂本 挿絵影印4面(天理大学蔵)
 ・李卓吾本 本文第1ページ影印(内閣文庫蔵)
 (解説:9ページ弱)
③・猴行者レリーフ泉州開元寺西塔)写真
 ・西遊証道書虞集原序 影印
 ・朴通事諺解 影印
 ・世徳堂本標題・序影印各1面・挿絵影印2面(天理大学蔵)
 ・明本(朱本・楊本・世本)目次対照表
 ・唐三蔵西遊伝(=朱鼎臣本)本文第1ページ影印
 (解説:16ページ半)
※ なお、③の解説によると、明刊本の祖本と目される『西遊釈厄伝』は朱本では「厄」を「尼」に作り、楊本では『三蔵釈尼伝』とする、と云う。
※ 以上の平凡社の訳本は、清刊本諸本の中の、簡本である『西遊真詮』を底本とし、挿絵二百枚は明刊本の繁本である『李卓吾先生批評西遊記』の挿絵を載録している。 
※ (宋→元→明→清)
※ 岩波文庫本『西遊記』全10巻 中野美代子訳(旧版は1〜3巻まで小野忍訳)は、
李卓吾先生批評西遊記』(李卓吾本)の全訳。 
  ・岩波文庫旧版=1977(昭和52年)〜
  ・岩波文庫新版=2005(平成17年)〜
の刊行である。
※『李卓吾本』『西遊真詮』ともに全百話からなるが、繁本である前者では、三蔵法師の生い立ちの部分を欠いている(=後者の第9話に該当する部分。前者では第9話がほかの話になっている)というのは奇妙である。