行列字(ハンニョルチャ・トルリムチャ)


 韓国人の名前(姓名の「名」の方)には、非常に使用頻度の高い漢字があるということは、以前から薄々感じてはいたが、その理由までは深く考えたことがなかった。

 しかし今回、その理由がややはっきりした。
 それは、韓国人の命名方法として、二文字の内の一文字は原則としてハンニョルチャ(行列字=こうれつじ)を使用するという決まりがあり、その予め決められた文字に一種の傾向(クセ)があるために、どうしてもよく見る字、目にする頻度の高い漢字が多くなる、という訳である。
 
 ではなぜ、行列字として予め決められた文字に一種の傾向が出るのかというと、この行列字という命名システムは、一名 トルリムチャ(回り字)とも呼ばれるように、木火土金水(もっ・か・ど・ごん・すい)の「五行(ごぎょう)」に縁のある文字を、順番に、そしてそれを循環的に繰り返すというのが一般的な法則になっているためである。
 その木火土金水を扁や旁とする漢字で人名によく使用される例を挙げると、
木・・・・・根・東・植・杓・柄・栄・柱など
火・・・・・荽・炳・燮・煥・烈・熙・勲など
土・・・・・在・圭・奎・基・均・吉・聖など
金・・・・・錫・鍾・鎔・鎬・鎮・鉉・銖など
水・・・・・洙・泰・洪・永・海・沢・泳など

 また一方、五行のほかに、十干・十二支(甲乙丙〜や、子丑寅〜)或いは漢数字(一二三〜)を部分に持つ漢字を使用するというケースもある。例えば<甲→鍾><丙→柄><三→泰>などであって、そうすると、鍾や柄や泰などは上記の表にも出ているから、一層同一文字の使用頻度が高まる道理である。

 ※なお、この行列字システムには、行列字を上に使用→下に使用→上に使用、ということを循環的に繰り返すという原則がある。
【例】
・・・x根(木)→炳x(火)→x在(土)→銖x(金)→x永(水)⇒東x(木)
 このように、二巡目には行列字の上・下が逆転することになる。

 ※それでは、この行列字は一体誰が 何時決めるのかというと、一族の会議で将来の何世代分もの行列字を一挙に決める。同じ本貫(金海の金氏、xxの金氏など、金氏なら金氏の中にもいくつもの本貫の種類がある)を持つ一族全体で決めたものは「大同行列字」という。

 ※この「大同行列字」を使用する一族同士の中では、行列字によって世代数が歴然としているが、同世代と言えども各家によって年齢差が開いてくるのは当然のことであり、遅い世代の人の方が早い世代の人よりはるかに年上というケースも往々にしてある。しかしそれでも、前者は後者に対して恭しく接しないといけないという珍妙な慣習がある、とはよく聞かされる話である。これがどの程度厳格に守られているのかは私はよく知らないが・・・・・。