”金俊平”の凶暴性

heisai2006-08-31


 『血と骨』という”作品”は映画・小説の両方とも実に面白い。文学に極めて疎い私には、文学的価値とかいう方面のことはよく分からない。しかし、面白さだけに限っていえば、これほど面白い作品は他にないのではないか、と思えるほどである。
 しかも、この筋書きが大部分と言ってよいほど真実に近いようなので、その点にもますます興味をそそられるわけである。
 きのう、実はこの作品の実際の舞台となった町に住むある方から、主人公・金俊平(実は梁川俊平)の2号さんと近所の人たちとが一緒に写っている写真を見せて貰った。映画では、美人女優[中村優子]が演じる山梨清子に該当する。近所では”梁川のてかけさん”と呼ばれていたので実名まではその方はご存知ない。
 その女性は脳を患って亡くなった、という点は事実のようだ。写真では美人というにはほど遠い。しかし一度みたら忘れにくいほど、印象の強い女性である。何とも表現しにくいが、本物はもしかしたら一種の色気のある人だったのかも知れない。
 それはともかくとして、その方からはいろいろなお話を伺ったが、その中で最も面白いと思った金俊平(いや、梁川俊平)のエピソードをメモしておく。

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 地図は、その物語当時の住宅地図である。地図上の「李」とは”李英姫”のことだろうか?。映画で鈴木京香演じる”李英姫”の住まいの場所には間違いないが、俊平の奥さんの実際の氏名が”李英姫さん”かどうかはその方はご存じない。
 その斜め向かいの「梁川」は俊平と2号さんとが住んでいた場所であり、「朝日水産工業」は俊平の経営する蒲鉾工場(作中では「朝日産業」)である。

 さて、これらの場所から少し東の方に、「煉炭工場」の文字が見られる。
 この煉炭工場にはトラックが割合頻繁に出入りしていたのである。そのトラックは帰るときは、バックで(地図上の)本堂家の角を曲がり、そこでチェックターンをして南側の市電通りに出るのが常であった。
 ところが「李」と「梁川」の二つの家に囲まれた空き地は近所の子供たちの遊び場所になっていた。
 ある時、そのトラックがターンする際、子供に接触しかけたのかも知れない。俊平が激怒してそのトラックの運転手を引きずりおろし、半死半生の目に遭わせているのをそのY氏は目撃している。運転手も屈強な荒くれ男のようだったが、鬼のような俊平には全く歯が立たず、一方的に痛めつけられていたらしい。それ以後トラックはこの道を避けて別の道を通るようになったとか。

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 この話を聞いて、私はもう一つの似たような話を思い出した。
 それは”大同山又道”のエピソードである。
 大同山は力道山と同時代のプロレスラーであるが、それほど有名とはいえなかったのではなかろうか?。私が大同山のことを知ったのは、「金総書記第4夫人・高英姫さん」が話題になった一昨年の事である。
 この高英姫の父親が大同山又道(本名・高泰文)で、彼の一家は帰国事業で北朝鮮へ帰国するまで、生野区鶴橋1丁目に住んでいた。その家の近所の人から聞いた話が、この俊平の話とそっくりである。
 高英姫がまだ幼い少女の頃、たまたまタクシーがその家の前でバックをしたときに英姫に接触してしまった。それを見た大同山が逆上してタクシーの運転手をボコボコに殴りつけているのを見たという。
 運転手さんには気の毒だが、在日一世のプロレスラーの子供にぶつけるとは、いくら何でも相手が悪すぎた。

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 とにかく、昔の在日一世には凶暴な人物が時々いたのは事実である。今は生活が豊かになったせいか(金持ち喧嘩せず、という)、何のせいか、人前で暴れるような人はここ何十年も見たことがない。まさに隔世の感がある。