司馬遼太郎の『殉死』を読んだ

heisai2006-06-12

この本の構成は、Ⅰ 要塞、Ⅱ 腹を切ること の二編となっている。
私の興味の焦点は、主人公・乃木希典は英雄なのか、凡将なのか―。
昔見た映画、たしか『二〇三高地』だったと思うが、
配役は乃木―仲代、児玉源太郎丹波哲郎明治天皇三船敏郎
乃木が無策な肉弾突撃を繰り返し、味方の屍の山を築くばかりでサッパリ成果が上がらない。
乃木更迭の声が出るが三船天皇は”乃木を替えてはならん。そんなことをしたら乃木は生きてはいまい”と乃木をかばう。
児玉が乃木の応援にやってきて旅順港を見下ろす二〇三高地に大砲を据え付けたことで一挙にカタがついてしまった。
この映画を見た限りでは(原作は誰?)、乃木は凡将どころか愚将ではないか?。
乃木をかばった天皇は、いくさ下手な将軍のために死地に追いやられる兵士たちの命はどう考えていたのだろう?。
この2つの疑問は、以来ずっと私の頭の片隅に蟠っていたが、『殉死』を読み終わった今も、完全にスッキリした、とはいかない。
いかないどころか、映画はこの『殉死』(Ⅰ 要塞)を原作にしているのだろうか、と思われるほど、全く内容が同じである。
この続きはまたあとで書く。


司馬さんはこの作品の方針を、
「筆者はこの書きものを、小説として書くのではなく小説以前の、いわば自分自身の思考をたしかめてみるといったふうの、そういうつもりで書く。(略)筆者自身のための覚えがきとして、受けとってもらえればありがたい。」
と、この作品の中で述べている。
 司馬さん自身も、乃木将軍の”旅順を陥落させた輝ける英雄”と”村夫子然とした風貌・いくさ下手”とのギャップの大きさにフシギな気持ちを抱き続けてきたのかも知れない。
 その答えは、この作品の中に克明に描き出されていた(Ⅱ 腹を切ること)。 

 
 殉死の直前、このとき未だ十二歳の少年であった のちの昭和天皇に対して、涙ながらに『中朝事実』の講義をするくだりは乃木将軍の求道者的人柄が最もよく現れている場面ではなかろうか。

※『中朝事実』http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E6%9C%9D%E4%BA%8B%E5%AE%9F